障害年金の基礎知識

自閉症スペクトラム障害で障害年金を申請する条件やポイントを社労士が解説

自閉症スペクトラム障害で 障害年金を申請する

自閉症スペクトラム障害とは、自閉症やアスペルガー障害、広汎性発達障害などと呼ばれていた疾患を含む発達障害の一つで、家庭や学校、職場などで他人と接する際に社会性やコミュニケーションの難しさが生じたり、特定の関心事に強いこだわりを見せることが特徴的です。
また、個人によってどのような特徴がどれくらい強く現れるかは異なり、五感のうちのいずれかが過敏になる場合もあれば、逆に鈍感になる場合などそれぞれの症例には差異が見られます。
近年の研究では、100人に1人を超える有病率が報告されており世間的に認知度が高くなった障害の一つです。

こちらの記事では自閉症スペクトラム障害と診断され就業が難しくなった人が障害年金を受給できる条件やポイントをご紹介していきます。

こちらの記事でわかること

自閉スペクトラム症(ASD)とは?

自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)は、発達障害の一つであり、「対人関係や社会的なやりとりの障害」と「こだわり行動」という2つの基本的な特性を持ちます。
ASDとは自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害の英語表記であり、「Autism Spectrum Disorder=ASD」の頭文字をとった略称です。

それではどのような特性があるのかをみていきましょう。

対人との会話や社会的なやり取りが苦手

自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)の基本特性の一つは、「対人関係や社会的なやりとりの障害」です。

この特性は、人との関わりが苦手で場の空気を読み取ったり、伝え方、相手の気持ちや暗黙のルールなど理解することに難しさがあります。
また、言われたことを表面的に受け取ってしまったり、相手に皮肉と感じられる伝え方をしてしまったりするので社会的な場面での困難さが持続することが挙げられます。

行動にもこだわりがある

もう一つの基本特性は、「こだわり行動」です。

この特性により、物の配置、物事の順番、勝敗、自分のやり方への強い固執、興味や関心の極端な偏りなどが見られます。

個人によってこだわりの程度や種類は異なりますが、共通しているのは特定のテーマやアクティビティに対して非常に強い関心を示すことです。

また、ASDの特性として手先の不器用さや感覚刺激に対して過敏または鈍感な場合も見られることがあります。

これらの特性が、ASDの人々が日常生活や社会的な状況において個々に困難を抱える要因となっています。

自閉スペクトラム症(ASD)の原因は?

自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)は、脳の障害とされています。
生まれつきの脳の機能に何らかの原因があることでで発症し、親のしつけや育て方、本人の性格とは無関係であることが明らかになっています。

完全に治ることはありませが、対人関係や社会性の困難に対する配慮や、本人の特性に合った環境調整、療育・教育を行うことで、症状の改善や発達の促進が期待できます。
適切なサポートや支援が提供されることで、ASDの個人がより豊かな生活を送ることができるようになるのです。

自閉スペクトラム症(ASD)の診断について

自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断について説明します。

ASDの特性は、一般的に生後2年目(12ヵ月~24ヵ月)頃に気づかれることが多いとされています。
早い場合には1歳半検診の時にも特性が観察されることがあります。
ただし、これらの特性が見られたからといって、自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)と断定することはできません。

また、一般的な病院では必ずしもASDの診断を下すことができない場合が多くあるので、適切な診断を受けるために大学病院や総合病院、小児科・児童精神科・小児神経科などに相談してみましょう。

そして、ASDの診断には専門医による充分な観察と評価が必要となります。
家族や保育園・幼稚園・学校などからの観察情報も重要な要素となります。
また、特定の検査や評価尺度も用いられることがあります。
早期の診断と適切なサポートは、ASDの個人の発達に対する支援や生活の質の向上に役立ちます。

診断基準

自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断には、「DSM-5」(「精神疾患の診断・統計マニュアル」第5版)が広く用いられています。

「DSM-5」によるASDの診断基準は、以下のような特性による困り事が該当するかどうかを判断するための指針となっています:

  1. 「対人関係や社会的なやりとりの障害」:相互交流、社会的なコミュニケーション、非言語的コミュニケーションの困難さが見られること。

  2. 「こだわり行動」:特定の興味や活動に強いこだわりがあること、または繰り返し行う行動や動作パターンがあること。

これらの特性による困り事が、以下の条件を満たす場合にASDと診断されることがあります:

  • 複数の状況(学校や家庭など)で困り事が起きていること。
  • それにより日常生活や社会生活で大きな影響が出ていること。
  • これらの困り事が6か月以上継続していること。

ただし、これらの診断は複雑で専門的な判断を必要とするため、診断は専門医によって行われます。
そこで、適切な評価とサポートが個々の状況に適用されASDの人々がより豊かな生活を送ることができるようになります。

診断方法

自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断には、複数の方法が用いられます。

一般的に、以下のような診断方法が行われます:

問診

保護者や家族が医師に対して子どもの日常生活や行動、発達に関する情報を提供します。母子手帳や保育園・幼稚園の連絡帳、学校の通知表、日常の様子をメモしたものなどを持参すると、より詳細な情報が得られることがあります。

行動観察

医師が子どもの行動やコミュニケーションなどを直接観察します。

特定の行動パターンや特徴的なコミュニケーションの困難さなどが観察されることで、ASDの特性が把握されることがあります。

心理検査や知能検査:

さまざまなテストを用いて子どもの発達水準や知能水準、行動特性、パーソナリティなどを評価します。
代表的なものとして、「WISC-Ⅳ 知能検査」や「田中ビネー知能検査V」があります。

生理学的な検査

場合によっては、脳波検査や遺伝子検査などが行われることもあります。これらの検査により、脳の機能や遺伝子に関する情報が得られる場合があります。

診断は通常一度の受診で終わることはなく、数回にわたって検査や観察が行われ、その結果を総合的に判断することで、ASDの診断が下されます。

早期の診断と適切なサポートがASDの個人の発達にとって重要であり、適切なサポートを提供することで日常生活や社会生活の向上に寄与します。

自閉スペクトラム症(ASD)と診断されたら障害年金を申請できる条件

社会人になってからASDが原因でお仕事ができず、貧困でお困りになられている方が多くいらっしゃいます。
その際は、障害年金制度を活用して障害年金を受給するようにしましょう。
発達障害についての障害認定基準を満たしている場合、原則として障害年金を請求することができます。

ただし、下記の条件が必要になります。

初診日

正確な情報を提供するため、発達障害の症状で初めて病院を受診した日、または初めて病名を医師から告げられた日を「初診日」と呼日ます。

初診日の時に、国民年金、厚生年金、共済年金に加入

障害年金(障害厚生年金または障害基礎年金)の支給には、加入期間、保険料の納付要件などが重要な条件があります。

以下に、障害年金の支給条件についてまとめます:

  1. 初診日のある月の前々月までの公的年金(厚生年金保険または国民年金)の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されていること(原則)

または

  1. 初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと(特例)

上記のいずれかの条件(1または2)を満たしている場合、障害年金の支給対象となることがあります。ただし、初診日時点で20歳未満であった方には、保険料納付要件は問われないことがあります。

ただし、年間所得が一定以上である場合、障害年金の支給額に制限がかかる場合があります。年収による制限があるため、詳細な支給額については年金機関に相談することが重要です。

障害年金の申請や詳細については、厚生労働省や地域の年金機関に相談し、適切な情報を得ることが大切です。個々のケースによって異なる条件があるため、正確な情報を提供することで適切なサポートを受けることができます。

認定基準

障害の程度

障害の状態

1級

発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如しており、かつ、著しく不適応な行動がみられるため、日常生活への適応が困難で常時援助を必要とするもの

2級

発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が乏しく、かつ、不適応な行動がみられるため、日常生活への適応にあたって援助が必要なもの

3級

発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が不十分で、かつ、社会行動に問題がみられるため、労働が著しい制限を受けるもの

参照:

国民年金・厚生年金保険障害認定基準

精神の障害に係る等級判定ガイドライン

発達障害で障害年金を受給に必要な書類

受診状況等証明書

「受診状況等証明書」は、発達障害の症状で初めて病院を受診した日(初診日)を証明するための書類です。
障害年金の受給資格や納付状況を確認する際に必ず初診日を証明する必要があります。
初診の病院が診断書を書いてくれる場合は、別途受診状況等証明書を作成する必要はありません。

一般的なケースでは、日常生活での就労中に発達障害の障害年金についての知識がなく、また初診日が過去になる場合があります。
特に、初診日から20年以上経過している場合や、病院のカルテが保管期間を過ぎて破棄されてしまっている場合、また廃院になってしまった病院の受診状況等証明書が取得できない場合があります。

そのような場合、初診日を証明するためには、病院の診察券、生命保険などの給付申請時の診断書、診療報酬明細書、領収書、第三者証明書などの資料が役立つ場合があります。
これらの資料を提出することで、初診日を証明することが可能です。

診断書

かかりつけ医から診断書をもらいましょう。

遡及請求とは?

障害年金について、障害認定日と遡及請求に関する説明があります。
障害認定日とは、初診日から1年6ヶ月経過した日を指し、この日に認定基準に該当する場合は、障害年金を遡及して請求できる可能性があります。
遡及請求によって、認定日以前からの支給が行われることになります。

遡及請求を行う場合、診断書が重要な役割を果たします。
障害認定日から3か月以内の症状の診断書と現在の症状の診断書の2通を取得することが推奨されます。
これによって、遡及請求の根拠となる初診日以前の症状と現在の症状が評価され、適切な支給を受けることができるでしょう。

病歴・就労状況等申立書

病歴・就労状況等申立書は、発病した時から現在までの経過を3〜5年に区切って申告するための書類です。
この書類は障害年金の申請者が自ら作成し、自身の病歴や日常生活、就労状況などについて記載する必要があります。

特に発達障害の場合、出生時から現在までの期間にわたる病歴・就労状況を詳細に記載することが重要です。
この申立書によって、障害の発症から現在までの経過や障害による影響を理解し、障害年金の支給対象として適格かどうかを評価する材料となります。

ご自身で申請が難しい場合は障害年金を専門としている社労士に相談しましょう。

書類入手や作成は個別のケースによる違いがありますので、専門機関に相談することが重要です。
適切なサポートを受けながら、正確な情報を提供し、障害年金の申請を行えば、申請までのスピードが速くなり、申請を失敗する可能性が圧倒的に低くなります。

ご依頼・ご相談から受給まで

この記事を書いた人
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丸橋 俊博

世田谷区でNO.1の実績!豊富な経験で障害年金の申請をサポートをしている社労士です。

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