うつ病の事例
私たちは、生活の中でさまざまな出来事が原因で気持ちが落ち込んだり、憂鬱な気分になったりすることがあります。しかし、数日もすると落ち込みや憂鬱な気分から回復して、また元気に頑張ろうと思える力を持っています。
ところが時に、原因が解決しても1日中気持ちが落ち込んだまま、いつまでも気分が回復せず、強い憂鬱感が長く続く場合があります。このため、普段通りの生活を送るのが難しくなったり、思い当たる原因がないのにそのような状態になったりするのが、うつ病です。
原因
うつ病は、まだ分からない事が多い病気です。脳の神経の情報を伝達する物質の量が減るなど脳の機能に異常を生じていると同時に、その人がものもの持っているうつ病になりやすい性質と、ストレスや体の病気、環境の変化など、生活の中の様々な要因が重なって発病すると考えられています。
・うつ病が起こりやすい性格
生真面目・几帳面・仕事熱心・責任感が強い・気が弱い・人情深くいつも他人に気を配る・相手の気持ちに敏感
・誘因となるストレス
うつ病は、何らかの過度なストレスが引き金になると考えられています。さまざまなストレスのうちで特に多いのは、人間関係の変化と環境の変化です。例えば身近な人の死や、リストラなどの悲しい出来事だけではなく、昇進や結婚、出産といった嬉しい出来事がきっかけでうつ病になることもあります。
・体の病気や薬が原因となることもある
慢性の病気の場合は特に、体の不調や痛み、社会生活の変化、経済的な負担などがふとレスとなり、抑うつ症状がみられることがあります。
また、薬の中には副作用として抑うつ症状が現れるものがあります。ウイルス性肝炎の治療に用いられるインターフェロン、抗がん薬、ステロイド、抗潰瘍薬などが、うつ病を引き起こすことがあります。
・体の中の変化
人間の脳の中には、神経伝達物質と呼ばれる物質があり、無数の神経細胞に情報を伝達する働きをしています。うつ病の時は、神経伝達物質のうちの、気分や思考、意欲などを担当するセロトニン、ノンアドレナリンの量が減っている事が分かっています。
また、言語、運動、精神活動を担っている脳の前頭葉を中心に、脳の血流や代謝が低下していることもわかってきています。
症状
・抑うつ気分 気分が落ち込む、憂鬱、理由もなく悲しい気持ちになる、何の希望もない。
・興味や喜びの喪失 今まで好きだったことや趣味をやる気になれない、テレビや新聞を見ても面白くない、性的な関心や欲求も低下する。
・精神運動の障害(強い焦燥感・運動の制止) 身体のウド気が遅くなる、口数が少なくなる。また逆に、じっと座っていられない、イライラして足踏みをする、落ち着きがなく体を動かす。
・思考力や集中力の低下 頭が冴えない、考えがまとまらない、決断力や判断力が低下する、反応が遅くなる、仕事の能率が落ちる、注意力が散漫になって、人の言う事がすぐに理解できない。
・意欲の低下 人と会ったり話したりするのが面倒になる。何をするのも億劫。
・自責感 何でも悪い方に考える、必要以上に自分を責める、周りの人に申し訳ないと思う。
・希死念慮 生きていくのが辛い、死んだ方がましだ。
・精神病症状 自分が重大な罪を犯したと思い込む罪業妄想、貧乏になったと確信する貧困妄想、がんなどの重い病気になったと信じ、検査結果で心配ないと話しても訂正できない心気妄想などがみられることがある。
身体症状
・睡眠の異常(不眠または睡眠過多)
・食欲の低下または増加
・疲労、倦怠感
・ホルモン系の異常…月経の不順、性欲の低下、勃起の障害
・その他の症状…頭痛(すっきりしない鈍い痛み)、頭重。肩、腰、背中などの痛み
治療方法
うつ病の治療の基本は、十分な休養によって心と体の疲れをとることと、薬によって神経伝達物質の異常を改善することです。さらに、考え方などを見直す精神療法を組み合わせることもあります。
十分な休養
休むことに抵抗や罪悪を感じ、何とか頑張って休みないようにしようと思いがちですが、うつ病が病気であることを理解し、医師に休むことをすすめられた場合は、思い切って仕事や家事や学校を休み、治療に専念しましょう。
薬物療法
抗うつ薬が薬物療法の中心となります。抗うつ薬は、脳の中のセロトニンやノンアドレナリンという物質のはたらきを高めて、抑うつ気分を取り除いて気分を高め、意欲を出させ、不安や緊張、焦燥感を取り除く、といった効果を現します。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノンアドレナリン再取り込み阻害薬)、三環系、非三環系といったタイプがあり、症状や状態によって使い分けます。
服薬を初めてすぐに効果が現れるわけではなく、一般に1週間から3週間の期間が必要です。通常、治療を始めてから2か月から半年くらいである程度よくなりますが、症状が改善したあとも服薬を続けることが必要です。
再び悪くなるのを防ぐため、通常の生活に戻ってからも半年~1年くらい治療を続けることがすすめられます。うつ病の再発率は高いのですが、効果が出た時と同じ量の薬を服薬し続けていると再発率が低くなります。
ですから、初めてうつ病になった場合には改善後半年から1年、同じ量の抗うつ薬を服用することがすすめられます。また、2回以上再発している場合などには、数年にわたって服薬することが望ましいとされています。
精神療法
精神療法の中心となるのは、支持的精神療法です。患者さんの話を聞き、不安な気持ちをよく理解したうえで、症状をよくしていくためのアドバイスをしていきます。このほか、抑うつ気分につながりやすい考えや行動の特徴に気付き、これを修正する認知行動療法も広まっています。
電気けいれん療法
頭皮に電極をつけ、電流を流します。薬物療法で効果が得られない場合や、薬物が使えない場合に用いられます。電気けいれん療法は最近では麻酔をかけ、体にけいれんが起こらないような方法で安全に行われることが多く、症例によっては極めて効果的です。
障害等級表
1級 | 1.統合失調症によるものにあっては、高度の残遺状態又は高度の病状があるため高度の人格変化、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験が顕著なため、常時の介護が必要なもの 2.そううつ病によるものにあっては、高度の気分、意欲・行動の障害及び高度の思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり、ひんぱんに繰り返したりするため、常時の介護が必要なもの |
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2級 | 1.統合失調症によるものにあっては、残遺状態又は病状があるため人格変化、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験があるため、日常生活が著しい制限を受けるもの 2.そううつ病によるものにあっては、気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり又はひんぱんに繰り返したりするため、日常生活が著しい制限を受けるもの |
3級 | 1.統合失調症によるものにあっては、残遺状態又は病状があり、人格変化の程度は著しくないが、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験があり、労働が制限を受けるもの 2.そううつ病によるものにあっては、気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、その病状は著しくないが、これが持続したり又は繰り返し、労働が制限を受けるもの |